「信長を殺した男~本能寺の変 431年目の真実~」の感想

マンガ

はじめに

 「信長を殺した男~本能寺の変 431年目の真実~」は明智光秀の末裔である明智憲三郎が書いた本です。自分が読んだものは全8巻の漫画版です。あらゆる歴史書を調べて導き出した結論が通説とは異なりかなり大胆な仮説ですが、参照した書物のほとんどが1次資料となっていて、絶対にありえないとは言えない仮説となっています。
 今回は漫画版の全体の構成や感想の後で、採用した仮説について具体的に触れての感想を述べていきます。もし本能寺の変の具体的な深層部分を前情報なしに読んでからのお楽しみとして見たいなら最初の「構成について」の部分だけ読んで買うことをお勧めします。信憑性については何とも言えないですが、様々な謀略がひしめいた結果、起こってしまった本能寺の変をドラマチックかつ、どこか天才が作り出した犯罪を状況証拠から暴いていくミステリのように感じで読めました。本能寺の変を題材にした読み物としては一番面白かったです。
 ここからは読了後の具体的な感想について述べていきます。

構成について

 物語は明智光秀が信長と出会い、足利義昭の上洛を目指すところから信長包囲網を乗り切るところまでを前半4巻、本能寺の変の下準備~山崎の戦いで敗れるまでを後半4巻で書いています。最初の4巻で本能寺の変まで至るまでの人間関係が分かり、その後の明智光秀の短い人生でラストスパートの本能寺の変~山崎の戦いを丁寧に4巻使って書いていました。

 参照しているのは一次資料やそこから考えられる状況証拠で推理したようなものとなっていて、説明は丁寧ですが、肝心の本能寺の変部分はあまりにもドラマチックすぎる解釈で出来事や人物の言動を書かれていて、歴史物語としては奇抜で面白いです。
 一例として信長の最後の言葉として「余は余自ら死を招いたな」という言葉がスペイン商人の記録に残ています。この言葉を聞いても普通の解釈は

  • 信長の今までの行動が巡り巡って自分の終着点にたどり着いた
  • 光秀に恨まれるようなことをしてしまったことの結果

など、ただ自分の死に際でかっこよく言い放った抽象的な言葉くらいで解釈しそうですが、この本では信長の一つの具体的な計画や行動が結果的に本能寺の変を招いてしまったという、あたかもミステリ小説でありそうなドラマチックな解釈をしています。歴史ものなのにここまでフィクション小説の粋な展開らしくかけているのが面白かったですね。

 後は演出として重要人物を古代中国で有名な架空の生き物に例えて書いているのですが、これも独自の解釈に当てはまるような配役で、物語として読みやすく頭に入りやすくなっていました。

織田信長:麒麟
 馬と龍が合わさったような風貌で、泰平の世で出てくる神獣。
天下統一できる君主として描かれていた。

羽柴秀吉:饕餮
  曲がった角を持ち、あらゆる食物や財産を喰らいつくす化け物。
戦国乱世が生み出した出世欲と残忍さを持った武将として描かれていた。

明智光秀:一角獣
 麒麟の亜種。悪人は角で突き刺し、正義の判断を司る神獣。
道を踏み外した君主をただして、民衆のための世の中を作り出そうとした武将として描かれていた。

 この描き方から分かるように、光秀が善人で秀吉は悪人として描かれていています。秀吉の悪い部分や思惑は歴史上の出来事から分かる通りですが、光秀があまりにも聖人として描かれていることも珍しいと感じました。
 そんな聖人の光秀が信長と意気投合し、天下統一目前まで追従したのに何が理由で信長暗殺を決心させたのか、そういうドラマのように追う展開も面白かったです。

本能寺の変について

 ここからは作品で採用された具体的な本能寺の変の展開について述べていきます。
まず光秀の動機は信長の天下布武が中国進出に及ぼうとしていたことです。中国出兵が行われるとせっかく日本統一で勝ち取った平和の世が崩れてしまうことが思想上の対立としてありました。
 そして具体的な謀反を起こさなければならないタイムリミットとして、長宗我部と織田家が対立したことによる四国出兵、そして信長が家康暗殺を実行する計画これらが迫ったためです。そのため暗殺実行役に任命された光秀がこの計画を逆手にとって謀反を起こしたという真相です。この際に家康にも事前に話しており、本能寺の変と同時に家督を継いだ織田信忠を暗殺するように依頼していたというものです。

 信長の中国出兵計画、長宗我部の征伐が原因で謀反を起こした、また家康黒幕説という考えは他の題材で聞いたことがあると思いますが、信長が家康暗殺を計画していたという部分は今まで聞いたこともなかったと思います。この実行役として信長と計画を練る際に織田家領地内で家康が謀反を起こす可能性があるというデマを理由として暗殺をするというものですが、織田信長の面目を立つため、信長は少数しか配下を連れていない状況にして、毛利との戦いの応援として準備していた光秀が急遽、本能寺にきた家康を信長を助けるため殺すという計画です。本当に信長がこんな計画を立てていたのかという部分はありますが、情報漏れを防ぐために文書で残していなかったというなら実際に合ったとしてもおかしくないかもしれないです。

 こういった内容から本能寺の変は急遽起こった偶発的な出来事ではなく、光秀が用意周到に考えた計画的謀殺のようです。ただその後の展開は悲劇として描かれています。情報を共有した信頼できると思った細川が裏切り、秀吉に情報漏洩が行われたこと、事前に本能寺の変が起こることを知っていた秀吉が速やかな和平と光秀との戦いを計画していたことで中国大返しを実現したこと。安土城は軍事拠点として将来秀吉に使われることを恐れた家康が燃やしたとしています。

長くなったのでまとめると

①信長が中国進出を計画→安定した平和を目指した光秀と対立
②織田対抗勢力になりうる長宗我部征伐家康暗殺が計画されていたことが謀反へのタイムリミット
③家康暗殺計画を利用して、信長を本能寺、家康への案内役として信忠を居させる。
④織田家滅亡後、明智・徳川政権で天下統一を目指す。→事前に計画を知った秀吉が利用

という流れです。本能寺の変からその後の山崎の戦いまで、戦国武将の三英傑と日本一有名な反逆者の思惑が入り混じって起た奇妙な事件を本能寺の変として描いています。史実かどうかはさておき、一番面白い本能寺の変のストーリと感じました。

おわりに

 読了後に一番ドラマチックに書かれた本能寺の変だと感じました。歴史好きなら読んでみてびっくりする奇抜さもある作品となっています。まとめると

  • 戦国時代が好きな人
  • ドラマチックで様々な謀略によって生み出された本能寺の変が好きな人
  • 歴史上の謎を一次資料や状況証拠から推理して導き出すミステリーでよくある過程が好きな人

 これらには向いていると思います。
興味が湧いたら是非読んでみてください。

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